第6話「姿なき新郎」
これは国内リゾート婚をご相談にきたIさんの話。
仕事の都合や離れて暮らしているということで、新郎と本番まで会うことができないこともあります。当日に初めてご挨拶して、段取りや予行練習を行うので、新郎も大変です。
しかし今回の話は上記とは少し違い、困ったというか、怖くなったのが本音です。
実はここ最近、結婚する相手がいないのに結婚式の申込み、相談を来る方が多いのです。
こういう方は新郎の名前をデタラメに書いたり、芸能人の名前だったり、はたまた不倫?相手の名前だったりを記入し、式の直前に「結婚が破談した」といってキャンセルするパターンが多いのですが。
今回のIさんは新郎が仕事上来られないというのでお一人で式場や進行など決められていました。とても感じのいい女性で、来られていない新郎と電話でやり取りしながら招待状や料理・引出物の打合せもスムーズに終わり、あとは当日を待つだけです。
Iさんもものすごく楽しみにしているようで、私もなにげに
「新郎様もお喜びでしょう。まだ式まで数日ありますので、よろしかったら新郎様と打合せができればと思うのですが・・・当日は大変ですし・・・」と、Iさんに提案したところ、
先ほどの笑顔が一転して暗い顔になり、ギロッとこっちをにらみ、
「○○くんは仕事が忙しいので、当日でお願いします!!」と強い口調で言われました。
申し訳ないと私も頭を下げたのですが、Iさんも我に返ったのか「こちらこそごめんなさい〜。突然だったので」
その言葉を聞き、お二人もいろいろあるんだろうなと思い、当日、新郎に会えることを楽しみにしておりました。
当日、式場に現れたIさん。そしてご両親、親族。
ここまできたらキャンセルはないなと安心した私。しかし、ひとつ不思議に感じた事がありました。来られてあるゲストはすべて新婦側。新郎側のゲストはまだ来られていないのです。
式が始まるまでにはまだ時間があるので、ゲストの入りは心配していたのですが、一番気になったのがまだ新郎が到着していない!さすがにもう来て頂かないと間に合わない!そう思い、Iさんに連絡をとっていただけないか頼んだのですが、「昨日、友人たちと飲んでいたので寝坊したのかな?」なんてのんきに話しています。
焦る私。のんきな新婦。それを見守る新婦の両親。
新婦の両親にも事情を話すと、両親も新郎には会ったことがない。写真だけ見せてもらった。と言われました。
えっ!どういこと?そんなことって・・・・
そんな時、ある男性が責任者に会いたいとの報告があり、私は一目散に受付に向かいました。その男性こそが、Iさんが話されてあった新郎だったのです。
Iさんから連絡があり、ここに来たのだがいったいこれはどういうことなのか。
なぜ自分が今日結婚式を挙げるのか?なぜ、自分の名前が書いてあるのか?私にいろいろと投げかけられました。
私もびっくりしたのですが、いろいろと男性からお話を聞いてみると、今日の朝突然電話が掛かってきて、今から○○の式場まできてくれないかと頼まれた。来ないと死んじゃう!と泣きつかれたので来たのだが、到着したら自分の名前で式があると知り、事情を聞きたく私を呼んだらしいのです。
Iさんとは以前交際したいたが、その後別れて今は別の女性と交際しているとのこと(結婚も決まっているそうです)。
最近、ちょくちょく電話やメールが来ていたが気持ちもないので無視をしていて、流石に今日は回数が多くてでてしまい、状況が把握できないまま式場に到着そうです。
その時、丁度Iさんがやってきて、
「○○くん、早く着替えてよ!もう式始まっちゃうよ」と何事もなかったかのように元彼に話したのです。私も元彼もキョトンとし、「お前なにいってんだ!俺は君とは結婚しない。別れたじゃないか!」と言い放ちました!
結婚するの一点張りのIさんと結婚はしないと話す元彼の押し問答はつづき、Iさんのご両親もどうしたものかと悩んでいました。受付前には他の親族。友人?職場の人?らしき人もチラホラ。どうしたんだろうと不思議に見ています。
どうやら元彼ともう一度よりを戻したくて、今日呼び出し、無理矢理結婚式をあげれば誰にも奪われないと思ったらしいのです。それを聞いた元彼は激怒!両親も親族も友人もあきれ顔・・・・。
「お前の人に迷惑かけても何も思わないところが嫌なんだよ!今日もたくさんの人に迷惑かけてるだろう!」
元彼の仰る通りです。私たちはともかく、ゲストの方は祝福のために本日きたのですから・・・。
そういうと、元彼は怒って会場を出て行かれました。ゲストの前で泣き叫ぶIさんを両親と親族が引き止め、会場は一次騒然となり、案の定その日の式はキャンセルとなりました。ご両親もゲストに頭を下げ、私たちにもご迷惑おかけしましたと頭を下げられました。
Iさんはその場に座り込み、呆然とし、その後、両親と親族に連れて行かれました。
後日、ご両親が私どものところにこられ、再度頭を下げられ、キャンセル料を支払われました。何度も頭を下げられるご両親の姿は、見るに耐えれない姿でした。
姿の見えない彼を想ってやったことは、姿の見える誰かに迷惑をかけていたのですね。
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